ヤックアタックレースレポート

レース: ヤックアタック
開催日時: 2015年11月7~16日
結果: 総合5位

ステージ1:1位
ステージ2:2位
ステージ3:3位
ステージ4:3位
ステージ5:5位
ステージ6:6位
ステージ7:10位
ステージ8:5位

総合距離: 約400キロ
総合タイム: 25時間21分59秒
総合獲得標高: 約12000メートル
レース最高地点: 5416メートル
場所: ネパール・カトマンズ〜アンナプルナサーキット
大会ウェブサイト: http://theyakattack.com/yakattack/

「ヤックアタック」、私が経験しているレースの中でもピカイチに過酷なステージレース。自転車のフィットネスだけではなく、ヒマラヤ山脈の厳しい環境で生き残るサバイバル能力、精神力、食中毒の回避など特殊な準備が必要となってくる。過去2年挑戦し、初年度は食中毒感染によるドクターストップ、2年目は高山病に苦しみ準優勝。

今年は悲願の「優勝」を手に入れるために過去の経験を生かし、例年以上に入念に準備を整えて臨んだ。

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ステージ1:Shivapuri〜Nuwakot, 距離47km, 獲得標高955m 

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いよいよ9日間の激闘の火蓋が切って落とされた。牽制という言葉もなく、スタートからレッドゾーンの高速ペース。ネパールの若手ライダー達が積極的に攻めてくるが、先頭は譲らずにレースをコントロール。

開始30分もすると良き友でありライバル、ネパールのナショナルチャンプ、アジェイ・パンディット・チェトリ選手との二人に絞られていた。彼はヤックアタックのコースデザイナーでもあり、毎年優勝しているいわば絶対的な王者。しかし、私も3年目の参戦。勝ちしか見えていないし、自信もある。負けない。

テクニカルな下りで部があると判断し、一気に差を引き離し、単独リードへ持ち込む。そこからは一人タイムトライアル。最後の長くきつい登りも冷静に追い込み、初日を優勝という最高の形で終えることができた。

ステージ2:Trisuli〜Gorka, 距離80km, 獲得標高2601m

二日目は急勾配のアップダウンが繰り返され、路面もテクニカルで最もきついステージとも噂されている。

この日もスタートから先頭を譲らずにレースをコントロール。狙うは完全優勝だ。スタートから続く40分ほどのガレた急勾配の登りを終えると長いテクニカルなダウンヒルセクションが続く。予定通りここでかなり後続を離すことに成功。

視界には誰も見えない。「今日もいける」そう思わせる展開だ。

あとは自分のレースペースを冷静にキープすることに集中。

しかし、ここで痛恨のコースミス。今年のコースマークは昨年と比べると見えにくく、ヒヤヒヤしながら乗っていた。案の定、下りで飛ばしたまま小さいサインを見逃してしまったのだ。直感でなにかおかしいと思い、ダウンロードGPSマップでルート確認するとコースをオフしていることに気づく。違う道を結構な勢いで下ってしまっていたのだ。

間違えたと思われる分岐点へと引き返して登り返す。無駄な体力が使われ、焦る気持ちも募る。

立ち止まりながら道を確認し、正規のコースをなんとか発見して再スタート。

この大幅ロスで後続に追いつかれてしまい、チェトリ選手とバット選手の3人パックとなる。

チェトリ選手は追いついたことで勢いに乗り、強烈なアタックを仕掛けてくる。悔しいが着いていけない。加えて気温が30℃以上に上り、容赦なく体力を奪う。

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ギヤ周りに枯れ草が絡まるトラブルなどもあり、心身ともにバランスが崩れてミスを繰り返す。0R5A1206

最後は足全体が攣り始め、真っ直ぐ走ることが困難になるほどのサバイバル状態でフィニッシュ。0R5A1199

なんとか2位で二日目を終え、総合では首位をキープ。今日はかなりダメージを負ったのでレース後は入念なストレッチ、栄養摂取、睡眠で回復に努めた。

ステージ3:Gorka〜Besi Sahar 距離40km, 獲得標高708m

今日は1分のインターバルで一人一人スタートするTT形式。現在総合1位の私は最終走者。目標は「全員に追いつくこと」。

両脇の沿道を埋め尽くす地元の方たちの大きな声援に見送られながら一漕ぎ目から100%ダッシュでスタート。

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©Neil Cottman

最初は約7キロのテクニカルな高速ダウンヒル。ギリギリを攻めて快調に飛ばす。前日のダメージも回復して足も回る感じだ。

しかし、開始数キロで興奮して攻めすぎたせいか、パンクをしてしまう。タイトなコーナーで前輪に荷重をかけすぎビードが外れ空気がすべて抜けてしまった。冷静になり、直ちにパンク修理作業を開始。チューブレスのためビードが上がるか不安があり、チューブを入れるか迷うがCO2のエアの勢いを信じて空気を充填。

問題なくビードも上がり、最小限のロスでパンクを修復。念のため、若干高めにエア圧を残した。

ロスを取り戻すために猛追をかける。途中情報では前のチェトリ選手との差が1分と聞く。パンク修理のタイムロスは回復できたようだ。このまま追いつきたいところだ。0R5A1453

ラスト10キロくらいからか、気持ちは追い込んでいるのに思うように力が入らずスピードが乗らない。焦って飛ばし過ぎたのだろうか。昨日の攣った足の影響だろうか。前に見えていた選手が再び遠のいていく。0R5A1466

フィニッシュラインまで気持ちは切らさずに追い込んだが結果は3位。パンクがあったとはいえ、どうしても勝ちたかった。しかし、まだ3日目。総合順位は2位に落ちたが、まだまだ優勝圏内。この悔しさは明日からのステージに思い切りぶつけよう。

ステージ4:Besi Sahar〜Chame, 距離72km, 獲得標高2922m

いよいよヤックアタックの本格的な山岳ステージが始まる。かの有名なヒマラヤの登山街道「アンナプルナサーキット」をマウンテンバイクで登るのだ。

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昨日の悔しさもあり、スタートから気合は十分。数キロは4人の先頭集団の中で様子を見ていたが、調子が良いことを感じたので徐々にペースアップして単独でトップへ出る。

今日のステージは約70キロの登りということでタイム差が大きく出やすい。このステージを勝負所と睨み、日本でのトレーニングも長く急勾配な登りの練習をしっかりと行ってきた。今こそ成果を発揮する時だ。

快調にリードを広げていく。きついが限界には触れていない。このままいけるはずだ。

下りセクションで前方から横一列で登ってくるネパールの男性4名が目に入る。バイクが来る事を叫んで知らせると横にどいてくれた。減速して通過する。

何気ない普通のやりとりに思えたが、ここで悲劇は起こった。

すれ違う直前、そのうちの一人の男性が何を思ったのか私の眼の前に再び飛び出てきた。

あまりの予期せぬ行動と一瞬の出来事だっただけに接触は避けられなかった。後から分かった事実だがこの飛び出した男性は酒気があり、ろれつもうまく回っていなかったのこと。

私はバイクから放り出され、岩場へと叩きつけられた。

右胸部と右膝を岩に強打。動くことも呼吸もままならない。ネパールの人が私の右腕を引っ張り、起こそうとしてくれるが激痛で叫んだほどだった。

しばらく動けずに横たわっていると後続のレーサーたちが追いつき、立ち止まって様子を見てくれた。私は「かまわず行ってくれ!レースを続けてくれ!」と言ったが、状況を見てとりあえずレースを中断して次のエイドステーションまで付き添ってくれることになった。迷惑をかけたことに申し訳なく、心苦しかったが、同時に皆の優しさに感動し、感謝した。

エイドポイントで大会ドクターに応急処置を施してもらった。

0R5A18740R5A1854レースはこのポイントから再スタートとなった。どうしても続けたかったのでドクターに交渉し、危険と判断されたらドクターストップを受け入れるという条件で再スタートを認めてもらった。

足はほぼ左足のみでのペダリング。右上半身もほぼ使えないので立ちこぎは禁止。

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激痛が走る。

「こんな状況だから完走すれば良いからゆっくり走ろう」

再スタート時はそんなことを頭で考えていたが、しばらくすると

「それで良いのか?」と考える自分がいた。

「例え0.0001%でも勝てるチャンスが残っているならば、走れるのならば、全力を尽くすべきじゃないのか!」

心の中で自問自答を繰り返すたびにスピードが上がっていく。負担がかかる左足が攣り始めるが構わず踏み続ける。

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前に進んでいる現状は事実。シンプルに、この瞬間でベストを尽くすことだけが今の私ができること。

そう思うと気持ちは不思議と吹っ切れていた。気づけば5位、4位、3位と順位を取り戻している。

波乱のステージ4は、まさかの3位というフィニッシュで幕を閉じた。

ステージ5:Chame〜Manang, 距離30km, 獲得標高1041m

今日からいよいよ標高3000メートルを超え始める。

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怪我の様子は、はっきり言ってよくない。おそらく肋骨にヒビか骨折が入っていて寝返りや笑うことも痛くてできない。右膝は腫れが引かずに深く曲げることができない。トイレはスクワットスタイル(いわゆる和式)なので、右足だけ伸ばした状態するなど非常に厳しい状況だ。妻の清子に小さな荷物すら持ってもらうほどだった。

それでもレースは容赦なく始まる。痛み止めを飲み、ごまかしながらレースを進める。ついていけるはずの先頭集団のペースから早くも千切られてしまう。身体的苦痛に加えて精神的苦痛も襲う。

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ふと顔を上げて周りを見渡すと荘厳なヒマラヤ山脈に囲まれた絶景が広がっていた。

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昨年も思ったが、

「ああ、自分は今あのヒマラヤ山脈でマウンテンバイクを乗っているんだ!最高だ!MTBやっていてよかった!」こんな最高のロケーションでMTBを乗るチャンスなんて滅多にない。厳しい状況ではあるが、この場に再び戻ってこられた喜びを噛み締めた。

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ステージ5は5位でフィニッシュ。ここマナンは3500メートル。明日は標高順応日。少しでも怪我の回復を祈るしかない。

ステージ6:Manang〜Thorong Phedi, 距離16km, 獲得標高1264m

今日のステージのフィニッシュ地点は標高4500mを越える。

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怪我の影響もあるが、スタートから息が苦しく、全くスピードに乗らない。しかし、周りの皆も必死の形相で追い込んでいる。負けてはいられない。

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壮大過ぎてリアルなのか疑うほどの素晴らしい景色とトレイルが広がる。吊り橋や断崖絶壁、危険は伴うがこのロケーションで戦えることはレーサー冥利につきる。

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痛み、標高、いろいろな障害はあるが、目標はシンプルに「フィニッシュ地点へ早くたどり着くこと」だけ。他は無い。このシンプルマインドもレースならではの魅力。

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距離はたったの16キロだが、高い標高と乗車不可能なセクションが多いのでそのペースは想像以上にスローだ。ロードでは考えられないが、なんと2時間近くかかる。この標高では追い込みすぎて一回息が上がりきってしまうとなかなか回復できないのでペース配分もすごく重要だ。

今日は6位。一日一日命を削るようなサバイバルな状況だが、まだてっぺんを目指す心は折れていない。

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ステージ7:Thorong Phedi〜Thorong La〜Kagbeni, 距離25km, 獲得標高956m, ダウンヒル2575m 

5416メートルのソロン峠を越えるヤックアタックのハイライトステージ。今年は開催時期が変わったので昨年ほどの積雪がない。しかし、レースはレース。追い込むことには変わりない。

朝2時45分起床、東京で低酸素テントを使用した効果か、おかげで昨年ほどの高山病や寝苦しさを感じなかった。スタート前、今の怪我の状態でバイクを背負って数時間登山することができるかという大きな不安があった。

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暗く極寒の朝4時、ヘッドライトを装着し、バイクを背負い登山スタイルでスタート。ハイクが強いインドのアーミー選手とネパールの選手が勢いよく登っていく。

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着いていきたい。しかし、背負っているバイクが怪我をしている鎖骨と肋骨に響き、斜度のキツイ登山は負傷している右膝にも負担がかかる。もちろん呼吸も苦しく、普段の歩くスピードより倍以上遅いだろう。

次々に抜かれていく。死ぬほど悔しいが、これが今の限界。小さい歩幅で蚊の止まるようなスピードで一歩一歩登った。

バージョン 3

うっすらと辺りが明るくなり、絶景の山々が浮かび上がってくる。

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ゆっくりと眺める余裕はないが、この景色をみることで疲労が多少和らぐ。

DSC01472 (1)3時間のハイクアップの末、永遠にたどり着け無いのではと思った峠に立つことができた。

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この体の状態でソロン峠越えができたことは心から嬉しかった。諦めなくて本当に良かった。

下りは積雪があまりなかったのでほぼ乗車して下ることができた。約2600メートルを一気に下り降りるダウンヒルは爽快そのもの。凍結、崖、ロックセクションなどスリリングな要素は満載だが、それも全てMTBの醍醐味。

最後コースロストはあったものの、懸念していた無事にソロン峠越えを達成することができた。加えて極上のダウンヒルも思い切り楽しむことができたので最高の1日となった。

ステージ8:Kagbeni〜Tatopani, 距離58km, 獲得標高326m、1824mダウンヒル

いよいよ最終ステージ。総合は5位まで降格してしまったが、ドクターストップ無しにこのステージを迎えられたことは純粋に嬉しい。

今日のレースが今シーズンの締めくくり。最後まで悔いの無い走りをしたい。コースプロファイル的には下りがメイン。肋骨と鎖骨に振動が響くが、2時間ちょっとの我慢だ。攻めていこう。

序盤の平坦とアップダウンのあるこぐセクションでは、苦戦を強いられるが下りが始まると一桁順位まで一気にジャンプアップ。

5、6、7パックでしばらくレースを進める。テクニカルな下りになればなるほど集中力が増し、トランス状態へと入っていく。

しばらくすると5位で単独となる。フィニッシュへ5キロ、3キロ、1キロと近づいていく。いろいろな感情が溢れてくる。

辛さ、楽しさ、ネパールの素晴らしさ、優勝できなかったどうしようもない悔しい思い、怪我と自分への怒り、達成感、サポートへの感謝、諦めない気持ち、、、、

フィニッシュゲートをくぐると先にフィニッシュしている仲間が笑顔で迎えてくれた。仲間と涙と笑顔でハグして互いの健闘を讃え、ただただフィニッシュした喜びを分かち合った。

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事故に遭い、レースに対してのモチーベーションすら失いかけ、途中棄権の恐れもあった今大会。しかし、フィニッシュして本当に良かった。今は最高の気分だ。

5位までの表彰結果は、

優勝は不動の王者、アジェイ・パンディット・チェトリ選手(ネパール)

準優勝、ピーター・バット選手(オーストラリア)

3位、ナラヤン・ゴパル・マハラジャ選手(ネパール)

4位、アイマン・タマン選手(ネパール)

5位、池田祐樹

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5位の賞金はネパール震災復興に尽力しているNCRR(https://nepalquakeassistance.wordpress.com)のSeven Schools in Seven Weeks(7日間で7つの学校を建設)のプロジェクトに全額寄付させてもらった。小さなヘルプかもしれないが、小さな力が集まればきっと大きなチェンジとなるはずだ。

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チェトリ選手の優勝はさすがとしか言いようがない。山岳での強靭な強さ、総合的な安定感、ネパールチャンプとしてのプライド、素晴らしい走りだった。心から賞賛を送りたい。

0R5A1227 ヤックアタック史上いまだ外国人が優勝していない。今年こそは私が初の外国人選手として優勝したかった。優勝の難しさを認識し、また気持ちを新たにチャレンジし続けていきたい。

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「絶対に諦めない。」

今まで何度も使ってきた言葉だけれど、今回の経験により、もっと深く理解した気がする。そして、そのぶんまた強くなれることも確信している。

不慮の事故とはいえ、優勝を逃した事実も真摯に受け止めたい。限りなくマイナス要素をゼロにするためにも、しっかりと反省して来シーズンにつなげたい。

おかげさまで今大会を持って、2015シーズンは終了しました。今シーズンはキャリア史上最多の5勝(ステージ優勝を含めると11勝)を上げました。こんなにも素晴らしいシーズンを送ることができたのも皆様の多大な応援とサポートのおかげです。

心から感謝を申し上げます。

来シーズンは更にパワーアップした池田祐樹の走りをお魅せします。

これからもどうぞ宜しくお願い申し上げます。

ありがとうございました!

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写真提供 ©Sayako Ikeda

レース機材:

バイク: Canyon LUX CF 29 チームエディション

ドライブトレイン:SRAM XX1

タイヤ: Continental X King 2.2 Protection: 前後20PSI

グリップ: Ergon GS1

グローブ: Ergon HX2

ペダル: Crank Brothers Eggbeater 11

ヘルメット: Limar

ボトルケージ: Topeak ShuttleCage CB

チェーンオイル:Finishline CeramicWet Lube

補給食:GUパワーバージェル&VESPAプロSayako’s Kitchen

リカバリー:C3fit コンプレッションソックス

テーピング:ニューハレ

パーソナルスポンサー:

NEW HALE:テーピング

自転車コーキ屋

Peaks Coaching Group Japan

VESPA

パワーバー

THE NORTH FACE

C3フィット

なでしこ健康生活・生きている玄米

ヒロコンフーズ

VITAMIX

HALO HEADBAND:ヘッドバンド

オルタナティブバイシクルズ

民宿 藤屋(王滝村)

百草丸 日野製薬(株)

スポーツクラブ ルネサンス

チームスポンサー:

Ergon

Topeak

Canyon

SRAM XX1ContinentalTires

Primal Wear

Finish Line

Crank Brothers

Chamois Butt’r

Stan’s No Tubes