ヤックアタックレースレポート2016後半

大会名:ヤックアタック2016
大会ウェブサイト:http://theyakattack.com/yakattack/
開催地:ネパール・アンナプルナサーキット/ムスタング
開催日時:2016年11月3~16日
結果:9ステージ総合5位
ステージ1(33km、獲得標高1190m、最高標高1616m):7位
ステージ2(71km、獲得標高2900m、最高標高2700m):5位
ステージ3(30km、獲得標高1250m、最高標高3540m):5位
ステージ4(16km、獲得標高1238m、最高標高4450m):6位
ステージ5(11km、獲得標高1036m、最高標高5416m):6位
ステージ6(46km、獲得標高2050m、最高標高4080m):3位
ステージ7(38km、獲得標高1400m、最高標高4010m):6位
ステージ8(54km、獲得標高2150m、最高標高4288m):4位
ステージ9(32km、獲得標高1250m、最高標高3751m):8位
タイム(9ステージ合計):24時間55分55秒

レースレポート前半(ステージ1〜5)

ステージ6(46km、獲得標高2050m、最高標高4080m) :

このステージから、許可を取らない限り入山できないネパールの聖地「ムスタング」エリアへと入る。例年と全く違うコースとなるので未知の世界だ。

考えないように、受け入れないようにしていたが、ステージ4の夜から崩した風邪らしき症状が本格化してきた。ただでさえ不調なのに体調まで崩してしまう失態。自分が情けなく、自身に対して堪らない怒りを覚える。

スタート前の体調は最悪。飲み込む唾でも喉は痛み、乾いた冷たい空気も滲みる。体はだるく、関節も痛む。少しでも、1秒でも喉と鼻を守るためにスタートギリギリまでマスクを着用した。レースをできるか迷うほどに具合は悪かった。

しかし、ここまで来て諦めてたまるかという意地とエゴ。加えて自分への怒り。スタートラインへと並ぶことを決意した。

スタートから乗車できない登り箇所が点在する。担いでは乗ってを繰り返し、4080mの峠を目指す。やはり身体の反応は鈍く、10位くらいの位置で序盤を進む。

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©Matt Rousu

しかし、身体が温まり始めると鼻が通り始め、足も回り始めた。決して速いわけではないが、淡々と一人ずつ抜いていきながら順位を上げる。

長いダウンヒルセクションで一気にトップ5まで上げる。寒く、乾いた荒涼とした山岳コースをただひたすら無心で漕ぎ続けた。

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©Matt Rousu

後半に差し掛かり、4位に浮上し、3位の選手を視界に捉える。容赦なく続く砂の深い20%の斜度はあるだろう登り。

具合も悪くなり、順位も振るわない。そのどん底の状況が逆にプレッシャーを取り払い、吹っ切れたように集中力を高くしてくれた。

3位のローンに並ぶ。向こうもステージ入賞を逃したくない。簡単には抜かさせてくれない。一進一退の攻防が続く。追いつくだけでも限界だったが、今はそこからさらにギヤを一段をかけての勝負。

抜きつ抜かれつの想像を絶するきつい状況が1時間くらい続く。一瞬でも足を緩めたら負けだ。絶対に引けない戦い。

テクニカルなロックセクションでわずかにローンが躓き遅れた。たった2〜3秒だろう。しかし、この数秒が大きい。震える足で無理やりダンシングでアタックをかける。精神的なダメージを与えるためにもできるだけ元気なフリをして演技をする。これっぽちも余裕はないが勝負をかける。

ここで初めてギャップが生まれ、さらにタイミング良く長めのダウンヒルに入り、さらにその差を広げる。

必死に逃げた。そして、まだ姿は見えないが前のトップ2人にも追いついてやる勢いで無我夢中でペダルを回した。

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©Matt Rousu

前の2人には追いつけなかったが、3位で今大会初のステージ入賞を果たした。大会中最悪の体調の日に。自分自身の可能性に驚き、嬉しくもなった。

レースは本当に何が起こるかわからない。しかし、それは今回のように諦めないで戦い続けていればの話だ。

最後まで戦ってみせると改めて心の中で誓った。

ステージ7(38km、獲得標高1400m、最高標高4010m):

連日限界を超えて追い込み、キャンプ地も標高3500m以上の過酷な環境下で体調も回復するわけはない。翌日のスタートは容赦なくやってくる。

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©Matt Rousu

今日のミッションも変わらない。「今のベストを尽くす」。余計な雑念は頭から排除し、前へ進むことのみに集中し、全力を尽くす。

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©Matt Rousu

人が生活できる環境か疑うほどの荒涼とした世界が広がる。まるで違う惑星に来たかのような錯覚にさえ陥る。

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©Matt Rousu

ネパールの最強コンビ、アジェイとローンと今日も競い合う。4−5−6位のパックだ。コースは3つの大きな峠があるわかりやすい設定。

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©Matt Rousu

3人でバトルをしながら良いペースを刻んでいくが、2つ目の峠頂上付近で悔しくも遅れ始めてしまう。私が弱いというのもあるが、やはり彼らは強い。3つ目の登りでも視界に2人はいるが追いつくことができない。

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©Matt Rousu

わずかな差だがトップ5に入り込めず、6位でフィニッシュ。7ステージ終えた総合は5位。

この時点で総合4位のアジェイとわずが8秒差。七日間レースを終えて8秒差とは、ものすごい良い勝負をしている。明日のステージは険しく長い。勝負の明暗を分けるステージになることは間違いない。

心から勝ちたい。

ステージ8(54km、獲得標高2150m、最高標高4288m):

具合が悪いことや、ネガティブな思考は一切捨て去った。今日はワンデーレースのつもりで臨む。

狙うはステージ優勝。ライバルのアジェイだけでなく、トップ3のコーリー、ティナス、ピーターにも勝つ。やってみせる。

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©Matt Rousu

スタートからアジェイが先頭を強烈なペースで引く。そこにコーリー、ティナス、少し離れて私、ナラヤン、ピーターが続く。アジェイからの気合いがバシバシ伝わって来る。

4000m付近なのでとても苦しい。しかし、今日の自分は負けていない。まずは遅れた始めたアジェイをパス。テクニカルなロックセクションで今大会不動のトップ2に追いつく。アジェイ、ピーター含む後続はかなり離している。

コーリー、ティナス、私の3人の先頭パックで進む。さすがにこの2人のペースは速い。ただ一緒に乗っているだけでは置いていかれてしまう。

登りの能力は現時点で2人には負ける。しかし、テクニカルセクション、下りでの技術では決して負けていない。むしろ勝っていると感じる。得意な場面では積極的に前へ出て、登り途中までは先行して、抜かされるにしても離される距離を最小限に抑える戦略を取った。

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©Matt Rousu

ムスタングの最高地点4288mの峠に差し掛かる手前で徐々に2人からジリジリと離されてしまう。

しかし、まだ焦ってはいない。これからテクニカルな長いダウンヒルがいくつかあると聞いている。長所を最大限に生かせば必ず追いついてステージ優勝の可能性はまだまだある。

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©Matt Rousu

1−2分遅れて登頂し、下りへと入る。ここからしばらく二日前のステージと重なり、以前とは進行方向が逆となる。

この下りで前の2人に合流したいところだが、コースに困惑してしまう。昔のコースサインが残っていて赤い矢印が2方向を向いているのでそのたびにスピードを緩め、確認しなければならない。しかも、下りでスピードもあるので見逃す不安も抱える。

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©Matt Rousu

疑心暗鬼のままにコースサインに習って下っていたら、気付くと見覚えのある二日前のフィニッシュ地点の村まで下りてきてしまっていた。そのまま行くと一昨日のステージを繰り返すことになってしまう。これは違うのではないか。。。

フィニッシュ後に聞いた話だが、同じ様にコースロストをした選手は多数いた。

とりあえずどこでコースミスをしたかもわからないので、下りてきた道を登り返す。精神的なショックからか足が回せず、バイクを押して歩いて登り返した。ようやく見晴らしが良い地点まで戻ってきて辺りを見渡す。

すると、自分の後ろにいたはずのアジェイ、ピーター、ティトの3人の登る姿が反対の山の中腹、遥か彼方に見えた。トップ2人の姿は視界にすら見えない。

ステージ優勝の夢が崩れ去る。絶望感。今から再スタートしてもあの3人にすら追いつけるかどうか。

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©Matt Rousu

悩んでいる暇はない。とりあえず追走を開始しなければ。不幸中の幸いなのか、今ステージは比較的長い。その分だけ再び追いつけるチャンスがあるということだ。ポジティブな面だけを考えて再びペダルに力を込めた。

足はまだ生きている。スピードが伸びる感覚もある。まだ絶対に追いつける。

5位のティトには思ったよりも早く追いつき、抜かすことができた。この時点で3−4分先にピーター、さらに1−2分前にアジェイの姿を捉えていた。ロストしたせいで残りの正確な距離が計算できない。フィニッシュまでに追いつきたい。間に合うか。

今日だけで限界の壁を何回越えただろうか。

所詮、限界なんて言葉であり、自分が作っていた妄想にすぎないのかもしれない。

現に、疲労が最高潮にあるはずのステージ8のこの場面で今大会中自己最高のパフォーマンスを発揮している。

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©Matt Rousu

張り裂けそうな心肺、何度も攣っている足、まだまだ動く。前へと確実に近づいていく。

最後の登りの頂上と思われる手前でピーターを抜き去る。

30分前には遥か彼方に見えていたアジェイの姿もグンと大きく視界に入ってきている。

深い轍と深い砂の急斜面ダウンヒルが始まる。巻き上がる砂埃で視界はゼロになる場面もあった。ラインが見えない中でほぼノーブレーキで飛ばす。リスクはかなりあるが、今はそのリスクを取る時だと判断。

危険、リスク、楽しさ、喜び、全てを引っくるめて、命をかけるほどの存在が私にとってのMTB。だから熱くなれるし、やめられない。

ワンコーナー差までその姿が近づいてくる。届きそうだ。

しかし、コーナーを曲がり、登り返したところでアジェイがフィニッシュしている姿が視界に飛び込んできた。先にフィニッシュしていたコーリーとティナスの姿も。

追いつけなかった。ステージ優勝もできなかった。

この日のアジェイとは33秒差。トップからは9分58秒差。

私がロスト時間は10分29秒(STRAVA調べ)。単純にロスト時間を引くと、ステージ優勝も夢ではなかったタイム。

レースに「たられば」はないが、今日のこの日、私は勝てる足と気持ちは持ち合わせていた。それがコースロストという理由で結果に繋がらなかった。

大会のコースマークミスという行き場のない怒りと、勝てなかった自分に対する死ぬほど悔しい想いはあるが、十分に戦えるポテンシャルがまだ自分の中に秘められていたことは驚きと同時に純粋に嬉しかった。

あと1日。今日の悔しさを明日にぶつけてみせる。

ステージ9(32km、獲得標高1250m、最高標高3751m):

最終ステージ。4位のアジェイとの差は38秒。今日も昨日に引き続き、狙うは悲願のステージ優勝。

短いステージだけにスタートから激しい攻防が始まる。序盤の平坦セクションではアジェイと共に先頭に出て、積極的に勝ちを意識した走りを見せた。

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©Matt Rousu

距離が短いとはいえ、アップダウンが激しく、ハードコースには変わりない。加えてキツイ向かい風が容赦なく吹き付ける。

最初の長めの登りに入り、ペースアップを図るが自分の身体とは思えないような重さを感じた。一気に先頭集団から取り残されてしまった。後続にも追いつかれ、必死に着いていこうとするが徐々にちぎられていく。

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©Matt Rousu

下りで前に近づくも登りに入るとスピードが出ない。前日のコースロストからの追い上げで足を使い果たしてしまったのか、足がフニャフニャで力むことも難しく、息だけが上がる。

それでも、最後まで諦めずに全力でやり抜く泥臭いスタイルが私。

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©Matt Rousu

最終日は7位と全く振るわない結果となってしまった。9ステージ総合は5位。

レースを終えて・・・

優勝をするためにネパールへ再び戻り、参戦したヤックアタック2016は終了した。

悔しさと反省だけが残るレースだったのだろうか。もちろんその部分は大きいがそれだけではなかった。

沢山の試練と感動、サバイバルな生活環境、涙が出るほどの絶景、自分の弱さとの葛藤、自分に秘めた新たな可能性、MTBの素晴らしさ、ライバルや仲間の大切さ、ネパールの文化、暖かさ、感謝、、、

この10日間の大会期間中に経験した幾多の「気付き」は私をレーサーとしてだけでなく、人として大きく成長させてくれたと思う。

優勝こそできなかったが、今シーズン最後のレースとして「ヤックアタック」へ参戦して良かったと心から思える。

今大会も、今シーズンも沢山の熱い応援・サポート誠にありがとうございました!

高地順応/低酸素トレーニング特別協力:
HYPOXICO 低酸素システム
ニュートラルワークス[NEUTRALWORKS. BY GOLDWIN](低酸素ルーム/リブートストレッチ)

登山・アウトドア装備協力:
THE NORTH FACE

レース中機材・装備:
バイク: Canyon LUX CF 29 チームエディション
フォーク・リアショック:Rock Shox RS-1Monarch XX
ブレーキ:SRAM Guide RSC
ドライブトレイン:SRAM XX1, フロント32T(ステージ2から30T)
タイヤ: Continental X King 2.2Protection: 前後18〜20PSI
シーラント:Stan’s NoTube Race Sealant
グリップ: Ergon GS1
グローブ: Ergon HX2
サドル:ERGON SMR3 S Pro Carbon
ペダル: Crank Brothers Eggbeater 11
ヘルメット: Limar
工具・サドルバッグ・ボトルケージ: Topeak
チェーンオイル:Finishline
補給食:GUパワーバージェル&VESPAプロSayako’s Kitchen
ソックス:C3fit 
テーピング:ニューハレ
ケーブル/ワイヤー:JAGWIRE
ヘッドバンド:Halo II (ヘイロ II) プルオーバー
チームジャージ:Primal Wear

パーソナルスポンサー:
NEW HALE:テーピング
自転車コーキ屋
Peaks Coaching Group Japan
VESPA
パワーバー
THE NORTH FACE
C3フィット
なでしこ健康生活・生きている玄米
ヒロコンフーズ
VITAMIX
HALO HEADBAND:ヘッドバンド
オルタナティブバイシクルズ
民宿 藤屋(王滝村)
百草丸 日野製薬(株)
スポーツクラブ ルネサンス

チームスポンサー:
Ergon
Topeak
Canyon
SRAM XX1
ContinentalTires
Primal Wear
Finish Line
Crank Brothers
Chamois Butt’r
Stan’s No Tubes